理学療法における評価の位置づけ

理学療法プロセスのモデル図

ここでは、理学療法学概論理学療法のプロセスで紹介しなかった部分を中心に説明します。

疾病にもとづく処方が起点

医師は、病歴、症状、初見などから診断を行い、疾病を特定します(病名、診断名)。疾病の治療において理学療法が必要な場合、理学療法が処方されます。過去に複数の病歴があることや、複数の疾病を同時に治療中のこともありますから、どの疾病に対し、理学療法が処方されたのかを確認します。医療保険においてリハビリテーション 料を算定する時にも算定病名(リンク先PDF3ページ目)が明記されます。

評価の目的

理学療法における評価の目的を挙げます [1] 。

  1. 対象者の全体像を把握する。
  2. 対象者の自己認識を高める。
  3. 治療計画の参考にする。
  4. 目標設定に役立てる。
  5. 将来のための基本線の設定を行う。

生活機能の整理

生活機能の整理は、評価の目的のうち、特に2「治療計画の参考にする」、3「目標設定に役立てる」ために必要なプロセスです。

評価に基づき生活機能を整理します。理学療法の初学者は、生活機能の否定的側面や肯定的側面を考えつく限り全て列挙し、考慮すべき生活機能が抜け落ちないように努めますが、熟練すると、目標設定や治療計画の観点から、着目すべき生活機能に優先順位をつけることができるようになります。

生活機能の整理にあたっては、慣例的に、生活機能の否定的側面には#をつけ、肯定的側面には♭を付けます。

以下の表に、脳出血(左被殻出血)により右片麻痺が出現した症例(53歳、男性)の生活機能(障害)の例を示します。この表には特徴的な障害のみを、 ICF illustration library [2]に掲載されている用語の中から選んで記載し、()内はこの症例の特徴を記載しています。

心身機能・身体構造 活動 参加
・1つの関節の可動性 b7100(#右足関節背屈の関節可動域制限、♭その他特記すべき関節可動域制限なし)

・身体の片側の筋力 b7302(#右片麻痺)

・身体の片側の筋緊張 b7352(#右上肢の筋緊張の低下および下肢の筋緊張の亢進)

・上肢や下肢の支持機能 b7603(#右下肢の支持機能の低下)

・歩行パターン機能 b770(#痙性片麻痺歩行)
・基本的な姿勢の変換 d410(#立ち上がりに軽度介助が必要、♭寝返り自立)

・しゃがみ位の保持 d4151(#和式トイレを使用でいない)

・立位の保持 d4154(#リーチ動作などの動的立位バランス不良、♭介助なく静止立位保持は可能)

・細かな手の使用 d440(#パソコンなど両手を使う事務動作の制限、♭左手は正常)

・手と腕の使用 d445(#両手を使うADL動作の制限、♭左上肢・左手は正常)

・歩行 d450(#T字杖歩行は中等度介助が必要、♭平行棒内歩行は見守りで可能)

・さまざまな場所での移動(#屋外の段差や不整地での歩行が困難) d460
・調理以外の家事 d640(#掃除や洗濯などの家事行為の制約)

・他者への援助 d660(#子守(野球の練習)の制約)

・報酬を伴う仕事 d850(#就労(事務職)の制約)
[1] 松澤正、江口勝彦:理学療法評価学, 金原出版, 東京, 2018, pp13

[2] ICF illustration library

心身の不調を整理するための用語

様々な用語があり、混乱しがちですが、大きく分けて、自分で認識している(自覚的な)ものと、他者が客観的に確認できる(他覚的)ものに分けられます。自覚的に認識できて、かつ、他覚的に確認できることも多いです。

症状:symptom

病気による異常を広い意味でいう。狭義には患者の訴える異常(症候)を指し、患者を診察して医師が認めうる他覚的異常の徴候と使い分ける場合もある。

リハビリテーション医学大辞典

徴候:sign

他覚的、客観的に認められる疾患の特徴。

理学療法学辞典

症候:sign and symptom

疾患によって生じた病的変化の総称。自覚的なものと他覚的なものがある。狭義には前者のみを指すこともある。

リハビリテーション医学大辞典

所見:finding

診察で得られた徴候。

リハビリテーション医学大辞典

疾病の診断と生活機能(障害)の評価

問診(面接)や視診(観察)などの行為は、医師が疾病を診断するために使われますし、理学療法士が生活機能(障害)を評価するためにも使われます。また、問診により主訴や現病歴を聴取しますが、この行為は医師であっても理学療法士であっても行います。

ただし、一般的に、これらの行為の主目的は、医師であれば診断であり、理学療法士であれば生活機能(障害)の評価です。

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