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インフォームド・コンセントの歴史
1957年、米国カリフォルニアの裁判の判決文でインフォームド・コンセントという言葉が初めて使われたそうです [1] 。しかし、インフォームド・コンセントという言葉が現在と同じような意味で一般的に用いられるようになったのは、それからしばらく経ってからです。医学の実験研究の倫理として有名なヘルシンキ宣言において、1964年にこの宣言が初めて発表された際にはインフォームド・コンセントという言葉そのものはなかったものの、1975年の改定ではインフォームド・コンセントという言葉は何度も出てきたとされています [1] 。
[1] 岡本珠代: インフォームド・コンセントの50年. 人間と科学 県立広島大学保健福祉学部誌 10(1): 2010, 1-8パターナリズムからインフォームド・コンセントへ
インフォームド・コンセントという言葉が広まった背景には、医学におけるパターナリズムに対する批判がありました。パターナリズムは、日本語では父権主義とか温情的干渉主義と訳され、「ある個人の利益になるという理由で、その個人の自律性を制限する干渉を行うこと [1] 」とされます。
古代ギリシア時代に作られたヒポクラテスの誓いは、医療倫理において一定の基準になりましたが、このヒポクラテスの誓いには強いパターナリズムが含まれていたため批判される部分もあります。つまり、「医学の専門家の私が言う通りにしていれば間違いないのだから、すべて私に任せて、養生に専念しなさい」というように、患者の自主性を無視する側面があったと指摘されています [2] 。ヒポクラテスの誓いにみられるように、当たり前のように考えられていた父権主義や温情的干渉主義は、第二次世界大戦中に行われた残虐な人体実験の反省などの経緯を経て、批判されるようになり、患者の自主性や自己決定権が重んじられるようになりました。しかし、患者が自己決定するに当たって必要な知識や判断材料は、医療側の手にあり、患者とは大きな非対称性があるため、医療側に説明責任が課されることになりました [2] 。このようにして、パターナリズムからインフォームド・コンセントへという流れが生じたのです。
[1] 五十嵐雅哉: 医療におけるパターナリズムが正当化される条件. 日本老年医学会雑誌 41(1): 2004, 8-15 [2] 吉田宗平: 医学・医療と生命倫理-パターナリズムからインフォームド・コンセントへ. 関西医療大学紀要 9: 2015インフォームド・コンセントとは
インフォームド・コンセントは、表のように2つのフェーズから構成されます [1] 。
表 インフォームド・コンセントの2つのフェーズ
フェーズ | 概要 | 内容 |
フェーズ1 | 医療従事者側からの十分な説明 | 医療従事者側から患者の理解が得られるよう懇切丁寧な説明が、あらゆる医療(検査、診断、治療、予防、ケア等)の提供において必要不可欠であることが強調されるべきである。この際、医療従事者からは医学的な判断に基づく治療方針等の提示を行うことが求められるが、患者の意思や考え方に耳を傾け、それぞれの患者に応じたより適切な説明とメニューの提示がなされることが必要である。健康診断における検査や予防接種など保健分野においても十分な説明が必要である。 |
フェーズ2 | 患者 側の理解、納得、同意、選択 | 患者本人の意思が最大限尊重されるのが狙いであ って、患者に医療内容等についての選択を迫ることが本来の意味ではない。また、 文書で患者の意思を確認することは、1つの手段として重要であるが、目的ではないことを理解する必要がある。 |
インフォームド・コンセントとShared Decision Making
医療の現場で患者さんの価値観を尊重しながら合意形成する方法として、近年、インフォームド・コンセントに加え、Shared decision making(共同意思決定)という考え方が広まっています。インフォームド・コンセントとShared decision makingは、表のような違いがあり [1] 、エビデンスが十分に蓄積されておらず、もともと、治療方針の決定に患者の意向が反映されやすい医学的リハビリテーションの領域では、Shared decision makingの意義が大きいと指摘されています [1] 。
表 インフォームド・コンセントとShared decision makingの比較
インフォームド・コンセント | Shared Decision Making | |
情報 伝達の方向性 | 医療者が決めた治療方 針を患者に説明する。一方向性の情報提供になりやすい。 | 患者が自分の希望や価値観についての情報を医療者に提供し、それらを反映させた治療方針を決定する。双方向性の情報共有になりやすい。 |
合意形成のプロセス | 医療者の情報提供の後になされる患者の受動的な同意と一般的には意味される。 | 患者と医療者がお互いの協働的な関係を認識し、医療者による治療方針の情報提供に加え、患者が方針決定に必要な個人の情報(希望、価値観、意向など)を医療者に伝え、お互いの情報を共有し、やり取りを経た上で決定に至る。 |
医療者と患者の治療の決定方法 | 医療者が提示した治療内容を患者が了解して「同意(consent)」する、いわば「患者が医療者に寄る」ような方法。緊急を要する場面や治療の確実性が高い、つまり治療選択の際にエビデンスが明らかな場合に有用性が高い。 | 医療者と患者の「合意(consensus)」に焦点がおかれる。有効な治療方法が確立しておらず、臨床的な不確実性の高い場面に有用性が高い。 |
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[…] 主訴やデマンドは患者の視点であり(患者の主観)、ニーズは医療者の視点(客観)です。そのため、初期段階での全体像の評価では、主訴やデマンドとニーズとの関係は、乖離がみられたり、齟齬が生じていることの方が多いです。しかし、理学療法が進行するにつれ、これらの関係は接近していくことも少なくありません。無理に、拙速に、主訴やデマンド とニーズを同じものにする必要はありませんが、これらの関係が接近する過程が、インフォームド・コンセントであり、Shared Decision Makingであると言えるかもしれません。 […]