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法律に示されている理学療法の手段
理学療法の法的定義で取り上げたように、理学療法士及び作業療法士法において理学療法の手段として以下の項目が記載されています。
- 治療体操
- その他の運動
- 電気刺激
- マッサージ
- 温熱
- その他の物理的手段
American Physical Therapy Associationによる手段の構成
手段としての理学療法の構成は、理学療法学概論系の教科書により少しずつ異なります。ここでは、American Physical Therapy Association(APTA)が発行するGuide to Physical Therapistの構成を紹介します [1]。
[1] American Physical Therapy Association – Guide to Physical Therapist Practice 3.0 – Table of ContentsPatient or Client Instruction: 患者や利用者への説明
以下が含まれます。
- 身体的、精神的健康に関すること
- 機能障害、活動制限、参加制約に関すること
- 病態に関すること
- 活動の遂行能力強化に関すること
- ケアプランに関すること
- 心理社会的な治療(恐怖回避思考、行動変容技法)に関すること
- 新しい環境への移行に関すること
- 新しい役割への移行に関すること
これらの内容を利用者に伝え、理解を深めていただくためには、単に一方的に知識を伝達するだけでは不十分で、利用者の認識に目を向ける必要があります。
心理社会的な治療の中に「行動変容技法」という用語がありますが、この技法も対象者の認識に着目して関わり方を工夫する技法です(図) [1]。行動変容技法では、行動変容ステージモデルのどのステージにいるのかを把握し、そのステージに合わせた働きかけを行います。
<図 行動変容ステージモデル>
また、心理社会的な治療の中に「恐怖回避思考」という用語があります。これは、非特異的腰痛(原因を特定しきれない腰痛)の病態を理解するために役立つモデルです。こちら[2]のPDF5ページ目の図3「腰痛の「恐怖回避思考モデル」を参照ください。このモデルの中にある「不安」や「恐怖」は「感情」の一種であり、このモデルは知識が感情に影響を与え、さらに行動に影響を与えるモデルと言えます。
[1] e-ヘルスネット – 行動変容ステージモデル [2] 松平浩: 職場における腰痛を代表とする筋・骨格系疾患の発症要因の解明に係る研究. 労災疾患等13分野医学研究・開発、普及事業【第2期】(平成21年度〜平成25年度)分野名「身体への過度の負担による筋・骨格系疾患」Therapeutic Exercise: 運動療法
有酸素性能力、持久力の向上と改善
有酸素性能力/持久力については理学療法の対象となる生活機能とその評価の有酸素性能力/持久力を参考にしてください。
歩行練習などの機器を使わないトレーニングと、自転車エルゴメーターやトレッドミルなどの機器を使うトレーニング(図)があります。
<図 トレッドミルを用いた有酸素性能力/持久力のトレーニング>
柔軟性の練習
自動運動により、筋の伸長、関節や軟部組織の柔軟性の改善をはかります(図)。
<図 自動運動によるストレッチの例>
リラクゼーション
呼吸法:通常、呼吸数は1分間に12〜18回です。この範囲内に収まるようにゆっくりとした腹式呼吸を行うと、リラクゼーションに有効とされています。
系統的脱感作療法:心理療法のテクニックとして恐怖や不安を取り除く目的で用いられます。
Motor Function Training: 運動機能トレーニング
運動機能トレーニングは運動療法の根幹をなす手段といえます。まずは、こちらの動画 [1] をみてください。脳卒中者の上肢の動きをよくするための機能トレーニングが行われています。一見、なにげない普通のトレーニングに見えるかもしれませんが、大切なのは「やり方」ではなく、運動機能を効率よく向上させるために必要な「理論」です。ここでは、運動機能トレーニングを行うにあたり重要ないくつかの理論を紹介します。
Motor Learning: 運動学習
運動学習には2つの要素があります。
- 保持:練習を行わない期間の後にも運動技能が持続して保たれている
- 転移:新しい状況で技能を発揮する力であり、技能を変化させる力である
運動学習を組織化(体系づけて)して行うためには以下のことを考慮する必要があります。
反復 | 1回のセッションで練習をどの程度繰り返し行うか |
部分か全体か | 技能を部分や要素に分けて練習するか、全体を通して練習するか(部分<全体) |
一定練習か多様性練習か | スピードや方向など多様な条件を取り入れ練習するか一定の条件で練習するか(一定<多様性) |
ランダム練習かブロック練習か | 複数の課題があるとき、一つの課題をまとまった回数行い、次の課題をまとまった回数行うのか(ブロック練習)、複数の課題をランダムな順番で行うのか(ランダム練習)(ブロック練習<ランダム練習) |
課題の進展 | 徐々に難易度を上げる |
顕在的手がかりか潜在的手がかりか | 鏡を見てフォームを確認するなどの顕在的手がかりか、フォームの感触を確かめるなどの潜在的手がかりか(顕在的手がかり→潜在的手がかり) |
Motor Control: 運動制御
運動制御の「制御」とは思い通りに動かすという意味で、個体(運動を行う人の特徴)、運動課題(どのような運動を行うか)、環境(運動を行う環境)の相互作用から成り立っています [2]。
[1] YouTube – Top 3 Exercises for Weak Arm after Stroke (Simple Do-it-yourself) [2] 健康長寿ネット – 健康長寿とは – 運動の基礎 – モーターコントロールとはManual Therapy Techniques: 徒手療法技術
徒手療法技術とは、治療者の手を用い、関節や軟部組織に対する他動運動を行うことです。目的として、
- 伸張性の改善
- 動きの増大
- リラクゼーションの促進
- 軟部組織と関節を動かし、操作する
- 疼痛のコントロール
- 軟部組織の腫脹・炎症・動きの制限を減らす
があげられます。
技術として、
- リンパドレナージ
- 牽引
- マッサージ
- モビライゼーション
- マニピュレーション
- 他動的関節可動域運動・自動介助関節可動域運動
などがあります。
こちらの動画 [1]は、英語ですが、上にあげた6つの技術が分かりやすく解説されています。
[1] YouTube – What is Manual Therapy | Do PTA’s Give Massage?Airway Clearance Techniques: 気道クリアランス法
以下の内容が含まれます。
- 呼吸法
- 気道クリアランスのための徒手や機械による技術
- 排痰・喀痰
- 咳嗽(がいそう)障害の管理や予防
- 姿勢調整
- 体位排痰法
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者様向けのパンフレットを紹介します(効果的な呼吸方法;PDF) [1]。口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸法、歩行や階段昇降など息切れが生じやすい動作時の呼吸法などが開設されています。
排痰法の動画です(YouTube) [2]。
[1] 独立行政法人環境再生保全機構 – 大気環境・ぜん息などの情報館 – パンフレット – パンフレット一覧・申込み – COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者さんのQOL向上のために呼吸リハビリテーションマニュアル2 効果的な呼吸方法 – 呼吸リハビリテーションマニュアル2:効果的な呼吸方法 [2] NPO法人日本呼吸器障害者情報センター:呼吸リハビリテーションシリーズ1-D:排痰リハビリテーションBiophysical Agents: 物理療法
物理療法の目的は主に以下の3つです [1]。
- 神経・筋機能制御
- 褥瘡・創傷ケア
- 疼痛管理
神経・筋機能制御では、筋収縮を促すために電気刺激療法やバイオフィードバック療法が用いられます。また、これらの機器を不必要な筋活動を抑制する目的で用いることもあります。
<図 機能的電気刺激療法> [2]
<図 筋電図バイオフィードバック療法> [3], [4]
褥瘡・創傷ケアでは、電気刺激療法の効果が認められています [5]。
疼痛管理には、温熱療法や寒冷療法、経皮的電気刺激療法(図)、牽引療法などがあります。炎症や浮腫を抑え、組織のリモデリングを促します。
<図 経皮的電気刺激療法;TENS> [6], [7], [8] [1] 日本理学療法士学会 – 物理療法部門 – 概要
[2] Wikimedia Commons – Functional Electrical Stimulation Therapy for improving walking in incomplete spinal cord injured individuals -30,31-.jpg [3] Wikimedia Commons – File:Biofeedback naprava .png [4] Wikimedia Commons – File:Electromyographic recording at adductor pollicis muscle and stimulation of the ulnar nerve.jpg [5] ガイドラインに基づく まるわかり褥瘡(じょくそう)ケア /創傷ケア |アルメディアWEB – Part8 知っておくと役立つ 手術療法、物理療法、局所陰圧閉鎖療法 – 物理療法の種類とその効果 – 電気刺激療法 [6] Wikimedia Commons – File:Tens.jpg [7] Wikimedia Commons – File:A transcutaneous electrical nerve stimulator (TENS).png [8] Wikipedia – Die freie Enzyklopädie – SchmerzIntegumentary Repair and Protection Techniques: 外皮の修復と保護テクニック
褥瘡の予防は、理学療法士の重要な役割です。自力で寝返りできない場合、体位変換を介助する必要があります。理学療法士は対象者の関節可動域制限や関節変形の程度を考慮した体位変換の方法を検討し、身体の特定の部位に体圧が集中しないようなポジショニングを検討します(褥瘡の予防について [1])。
理学療法士が関わる褥瘡予防として、車椅子のシーティング、装具の適合、靴の適合などがあります。
[1] 一般社団法人日本褥瘡学会 – 一般の皆様へ – 褥瘡の予防についてFunctional Training in Self-Care and in Domestic, Education, Work, Community, Social, and Civic Life: 生活機能トレーニング:セルフケア(基本的ADL)、家庭生活(手段的ADL)、教育、仕事、地域・社会生活
ADLについては、こちらのページ「Activity of Daily Living (ADL)」も参考にしてください。
基本的ADLには以下のようなものがあります。
食事、車いすからベッドへの移動、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、着替えなど
ADLを改善させる、獲得するには以下のような手段があります。
- ADLそのものを練習する
- ADLを構成する基本的な動作を練習する
- 自助具や補装具を使う
- 生活環境を整備する
トイレで排泄をする際、ズボンを自分で下ろせず、図のように介助が必要なことがあります。
<図 トイレ動作における下衣脱衣の介助>
このような場合、ズボンを上げ下ろしする練習を何度も繰り返すことで、一人で行えるように試みます。これは、「ADLそのものを練習する」方法です。しかし、立つことも難しい、立っているとふらついて立つことそのものを介助する必要があるような場合、ズボンの上げ下ろしを練習しようにも、なかなか上手にできません。そこで、「ADLを構成する基本的な動作を練習する」ことになります。ズボンを一人で下ろす動きを考えると、以下のような動作を安全に行うことが必要です。
- 直立できる
- 体を曲げて膝のあたりまで手を伸ばすことができる
- 太ももの後ろにも手を伸ばすことができる
- ズボンを掴んで下に押すことができる
- 前にかがんだ状態から直立に戻ることができる
これらの基本的な動作を行うためには、理学療法の対象となる生活機能とその評価で説明した中で、姿勢、バランス、筋力、感覚、関節の構造と可動性など様々な生活機能が関わります。理学療法士は、どの生活機能がどの程度障害されているか評価した上で、ADLそのものを練習するとともに、基本的な動作も練習します。
脳卒中患者では、理学療法の対象となる生活機能とその評価の支援技術でも紹介している下肢装具を装着することによりズボンを下ろす動作が安全に行えるようになることもあります(図) [1]。
<図 脳卒中患者に用いる足関節継手付き下肢装具>
膝のあたりまで手を伸ばすと倒れてしまう場合、トイレの手すりを利用する方法もあります(図) [2]。縦の手すりに肩を当て、手すりで肩を支えた状態で手を下に伸ばすと、比較的安定して動作できるようになることもあります。このように生活環境を調整する(生活環境を上手く利用する)ことで、ADLが改善することも少なくありません。
<図 手すりの設置例>
[1] Wikimedia Commons – File:Ankle Foot Orthosis leg brace worn on the left foot with ankle hinge.jpg [2] Wikimedia Commons – File:Handrail in toilet.jpgAssistive Technology: 支援技術
シーティングやポジショニング技術、歩行補助具、装具、義肢などについて、使用した方が良いかどうかの提案、どのようなものが良いかの検討、使用に際しての調整などを行います。
車椅子のシーティングについては、公益財団法人テクノエイド協会 [1] の「高齢者のための車椅子フィッティングマニュアル.pdf」※(p26-32)が参考になります。
※テクノエイド協会は直リンク禁止なので、テクノエイド協会のホームページからpdfのファイル名を検索し、閲覧してください。
自分で寝返りできない場合、長時間同じ身体部位が圧迫され、褥瘡(床ずれ)ができることがあります。これを予防するため、定時的な体位変換や骨が突出して圧が強くかかる部分の助圧などのポジショニングが有効です [2]。
歩行補助具には様々な種類があり [3]、安定性が高いものや、また、スムーズに歩きやすいものなどの特徴があるため、理学療法士は利用者の身体機能や活動能力と歩行補助具の特徴を理解し、適切な歩行補助具を選定する必要がああります。
脳卒中などの中枢神経疾患、靭帯損傷などの整形外科疾患に対して、様々な装具を使用します [4] 。理学療法士が装具を製作することは稀ですが、その人に合っているかどうか適合を評価し、装具の微調整を行うことは理学療法士の大切な役割です。また、装具の特徴を活かした機能改善プログラムを考えることも理学療法士の大切な役割です。
義足を使いこなせるように練習プログラムを作るのも理学療法士の仕事です(YouTube) [5]。また、義肢装具士と連携して義足の調整も行います。
[1] 公益財団法人テクノエイド協会 [2] 一般社団法人日本褥瘡学会 – 一般の皆様へ – 褥瘡の予防について [3] 福祉用具・介護用品のアビリティーズ オンライン販売 – こんな時に – 福祉用具の種類と選び方 – 歩行器・杖類の種類と選び方 [4] 公益財団法人 鉄道弘済会 – 義肢装具サポートセンター – 義肢装具について – いろいろな装具 [5] Helen Hayes Hospital – Amputee Therapy and Gait Training using ProsthesesSponsored Links
[…] 例えば、手段としての理学療法の構成で、運動機能トレーニングを紹介しました。ここで紹介した動画では、脳卒中患者に対し、ボールを使ったトレーニングが行われています。一見、ただ単に手でボールを転がしているように見えるかもしれませんが、闇雲にボールを転がす動きを繰り返すだけでは麻痺の回復を促す効果は高まりません。 […]