情報収集

情報の種類

一般情報、医学的情報、社会的情報、他職種からの情報などから構成されます。対象者ご本人から情報収集することもありますし、カルテや他職種、ご家族から情報収集することもあります。

一般情報

年齢

加齢に伴う生理的な機能低下、運動療法の効果が得られにくくなる、小児では成長の影響などを考慮します。

性別

女性では閉経後に骨量が減少しやすい(骨粗しょう症になる人が男性より多い)など、性別が身体に及ぼす影響を考慮します。

性別が身体に直接影響を及ぼさなくても、男性の方が喫煙率が高く、アルコール摂取量が多い傾向にあることから、特定の癌などで罹患率に性差が認められる疾患があるなど、知っておく必要があります。また、性別による一般的な社会的役割も考慮する必要があります。

保険の種類

公的医療保険には、国民健康保険、全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)、組合管掌健康保険、共済組合、後期高齢者医療制度などがあります。

その他、介護保険、労災保険、自賠責保険などがあります。

介護認定

要介護区分 目安
要支援1 日常生活動作(食事・排泄・入浴・掃除)の自宅での生活において、基本的な日常生活は一人で行うことが可能だが、手段的日常生活動作(買い物・金銭管理・内服薬管理・電話利用)のどれか1つ、一部見守りや介助が必要な人が対象です。
要支援2 要支援1に加え、下肢筋力低下により、歩行状態が不安定な人。今後日常生活において介護が必要になる可能性のある人が対象です。
要介護1 手段的日常生活動作でどれか1つ、毎日介助が必要となる人が対象です。日常生活動作においても、歩行不安定や下肢筋力低下により一部介助が必要な人が対象です。
要介護2 手段的日常生活動作や日常生活動作の一部に、毎日介助が必要になる人が対象です。日常生活動作を行うことはできるが、認知症の症状がみられており、日常生活にトラブルのある可能性がある人も対象です。
要介護3 自立歩行が困難な人で、杖・歩行器や車いすを利用している人が対象です。手段的日常生活動作や日常生活動作で、毎日何かの部分でも全面的に介助が必要な人が対象です。
要介護4 移動には車いすが必要となり、常時介護なしでは、日常生活を送ることができない人が対象です。全面的に介護を行う必要はあるものの、会話が行える状態の人が対象です。胃瘻や点滴で、食事介助の必要性がない人は、全面的な介護が必要でないと判断され、要介護4に該当することがあります。
要介護5 ほとんど寝たきりの状態で、意思の伝達が困難で、自力で食事が行えない状態の人が対象です。日常生活すべての面で、常時介護をしていないと生活することが困難な人が対象です。
[1] 健康長寿ネット高齢者を支える制度とサービス介護保険介護保険の介護度とは

医学的情報

診断名

診断とは、

医師が患者の異常を正確にとらえること。診断は病名だけでなく、疾病の原因、経過や予後など多種多様なものを含む。

リハビリテーション医学大辞典 [1]

です。

診断名や術式に従い、クリニカルパスが決められている疾患もあります。

クリニカルパスにより、

入院期間、検査項目および検査日、治療内容、退院日および退院時指導など

理学療法学辞典 [2]

などが決められています。参考までにある病院のクリニカルパス [3]を紹介します。

診断名(疾病)の特徴的な症状や所見(徴候)を把握し、それらが生じる機序を理解する必要があります。

現病歴

患者が訴えている症状がどのようにして始まり、どのような経過を経て現在に至っているかということ

理学療法評価学 [4]

理学療法における現病歴は、診断名が確定した後の治療や経過も含まれます。

手術歴(術式)、保存治療歴

手術の術式により、理学療法の進め方が変わることは少なくありません。例えば、こちらの論文 [5] を読んで理解することにより、術式が違えば、下肢への荷重練習の時期がどのように変化するか説明できるようになってください。

また、理学療法の対象となる疾患には、手術を行わない保存療法も多く、どのような経過をたどって病気が進行してきたかを理解することも必要です。例として、変形性膝関節症の進行に関する論文 [6]を紹介します。

既往歴、合併症

既往歴とは

患者の出生時から現疾患にかかるまでにかかったことのある大きな病気やけがのこと

理学療法評価学 [7]

です。既往歴が完治せず、症状が残存したり、日常生活が制限されるような障害が残存していると、理学療法の目標設定や治療方針に影響します。

合併症とは

ある疾病の経過中に新たに生じる症状で、元の疾病が原因で起こるものと、元の疾病と無関係に起こるものがある。

理学療法学辞典 [2]

理学療法でしばしばみられる合併症の例として、疾患の治療に伴う安静や臥床が長期化し、活動性が低下した結果生じる退行性変化である廃用症候群があります。

また、脳卒中などのように発症に他の基礎疾患が関わっている疾患も少なくなく、そのような既往歴に対するリスクを理解しておく必要もあります(こちらを参照 [8])。

禁忌

人体に何らかの影響を与える一切の医学的行為(薬剤の配合・使用、手術、処置、物理療法など)を患者に行なった場合には、疾病症状が増悪したりあるいは配合された薬剤が生体内で反応分解することで治療の目的にそぐわないような悪影響を及ぼすことが事前に判断されることがある。以上のようなことが予測される場合には、それらの医学的行為を決して行ってはならない。これを禁忌という。

理学療法学辞典[11]

理学療法においても様々な禁忌がありますが、例えば、物理療法の中の極超短波(マイクロ波)療法は、金属をよく加熱することから体内にペースメーカ、金属類が入っている患者さんに対しての使用は、禁忌事項になっています。極超短波(マイクロ波)による温熱療法では、電子レンジと同じ物理作用を用います。こちらの動画を見ていただければ、体内に金属類が入っている患者さんに対する極超短波の照射がいかに危険かを想像できると思います。

画像所見、検査所見

臨床検査所見、画像所見の活用の項で説明します。

服薬情報

対象者が服薬している薬剤について、以下の情報を調べ、理学療法プログラムを立てる際やリスク管理に役立てます。

  • 服薬している薬剤の種類(各疾患で用いられる薬剤の種類や特徴)
  • 具体的な作用とメカニズム
  • 服薬量(特に服薬量の変化)や服薬時間
  • 副作用
  • 薬剤の影響を受ける臨床検査値

ここでは、睡眠薬の例をあげ、服薬情報の重要性を示します。

理学療法の対象となる患者の中には、睡眠薬を服薬している人も少なくありません。睡眠薬は、脳の活動を抑えることで眠りやすくし、睡眠障害などを改善させる作用があります [9][10]。しかし、この睡眠薬の副作用として、ふらつきやめまいがあり、薬剤の種類や服用量が変わった場合には、翌日の転倒などに注意する必要がり、運動を行う理学療法では特に注意が必要です。

睡眠薬には多くの種類があり、作用時間(半減期)が異なります。理学療法士も対象者が服用している睡眠薬の作用時間(半減期)を知り、対象者の動きを観察し、解釈する際の参考にします [12]。

 

[1] 上田敏, 他 (編): リハビリテーション医学大辞典. 医学書院, 東京, 1996

[2] 奈良勲 (監修): 理学療法学辞典. 医学書院, 東京, 2006

[3] 近森病院クリニカルパス

[4] 松澤正、江口勝彦:理学療法評価学, 金原出版, 東京, 2018, pp29

[5] 石橋英明: 大腿骨頸部骨折のリハビリテーション. 理学療法科学 20(3): 2005, 227-233

[6] 石島旨章, 他: 変形性膝関節症の病態・診断・治療の最前線. 順天堂醫事雑誌 59(2): 2013, 138-151

[7] 松澤正、江口勝彦:理学療法評価学, 金原出版, 東京, 2018, pp30

[8] 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス循環器病あれこれ[81] 脳卒中のリハビリテーション

[9] 日経メディカル処方薬事典精神・神経用薬催眠・鎮静薬ベンゾジアゼピン系睡眠薬

[10] 日経メディカル処方薬事典精神・神経用薬催眠・鎮静薬非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(非BZD系睡眠薬)

[11] 奈良勲 (監修): 理学療法学辞典. 医学書院, 東京, 2006

[12] 元住吉こころみクリニックこころみ医学心療内科の薬剤睡眠薬(睡眠導入剤)ベンゾジアゼピン系睡眠薬の作用時間の比較

社会的情報

家族構成とキーパーソン

家族歴とは

祖父母、両親、兄弟姉妹、配偶者、子、孫などの家族内の健康状態、罹患疾患、死因、死亡時年齢などの状況を明らかにしたもの

理学療法学辞典 [1]

です。体質や遺伝性疾患は、家族歴との関係が深いため、医師の診断、診察においては必要になります。理学療法士も家族歴の情報は参考になりますが、むしろ家族構成の方が重要です。

家族構成は、将来、必要になる可能性のある人的資源(介護や生活の協力など)を把握する上で重要です。中でも鍵をにぎる人のことをキーパーソンと言います。利用者本人と最も信頼関係の築かれている人物がキーパーソンとなることが多いです。

家族構成は、家族図(ジェノグラム)で示します。こちらのPDF [2]の30ページを参考にしてください。

職業(歴)

職業復帰に必要な生活機能を予測するため、現在の仕事内容を把握する必要があります。

定年退職などにより、現在、仕事をしていない場合でも、職業歴はICFの個人因子を理解するために有用な情報になることがあります。

社会歴・生活歴

出身地、教育歴、経済状況、嗜好(喫煙、飲酒、食べ物)、趣味などであり、疾患の発生要因を理解したり、生活機能分類の参加や個人因子を理解したりするために有用な情報です。

住環境と周辺環境

国際生活機能分類(ICF)の環境因子として、退院後の生活を想定する上で重要です。

住環境の評価は、診療報酬の加算の対象になっています。リハビリテーション総合計画評価料において、入院時訪問指導加算という加算が認められており、この内容は、

当該病棟への入院日前7日以内又は入院後7日以内に当該患者の同意を得て、医師、看護師、理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士のうち1名以上が、必要に応じて社会福祉士、介護支援専門員又は介護福祉士等と協力して、退院後生活する患家等を訪問し、患者の病状、退院後生活する住環境(家屋構造、室内の段差、手すりの場所、近隣の店までの距離等)、家族の状況、患者及び家族の住環境に関する希望等の情報収集及び評価を行った上で、リハビリテーション総合実施計画を作成した場合に、入院中に1回に限り算定する。

平成30年診療報酬改定 [3]

となっています。

[1] 奈良勲 (監修): 理学療法学辞典. 医学書院, 東京, 2006

[2] 日本看護協会地域包括ケアを担う人材の確保(保健師関連事業)関連資料等実践力アップ事例検討会”-実施の手引き

[3] PT-OT-ST.NETH003-2リハビリテーション総合計画評価料

他職種から得る情報

ADL介助度

病棟での「しているADL」について、介助量、介助方法、補装具や福祉用具を使用しているかどうかなどを確認します。

栄養摂取方法と栄養状態、嚥下機能、排泄機能についても確認します。

高次脳機能

標準化された検査は作業療法士や言語聴覚士が行うことが多いです。

理学療法の場面で、動作を行う際に半側空間無視や身体失認などの高次脳機能障害がみられたり、動作方法をアドバイスする際に失語や失行が問題となることは少なくなく、理学療法士も高次脳機能障害と動作や活動の関連を理解することは不可欠です。

睡眠状態と生活リズム

看護師や患者ご本人から聴取します。夜間のトイレの状況や日中と比較した介助量についても確認します。睡眠薬を服用しているか、服用している場合は薬剤の種類と特徴について調べます。

看護度、介護度、転倒転落リスク

重症度、医療・看護必要度などを確認します。こちらのPDF [1] の5ページ目を見てください。

[1] 厚生労働省 – 入院医療等の調査・評価分科会 における検討状況について(報告)

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