全体像の評価

面接(問診)

主訴:Chief complaint

疾病、障害に関する対象者の主な訴え。身体症状に関するものだけでなく、精神状態や社会的状況など多岐にわたる。

理学療法学辞典 [1]

患者が最も強く訴える症状。ただしそれが診断上、最も重要な症状とは限らず、また最もニーズを反映するものとも限らない。

リハビリテーション医学大辞典 [2]

患者が最も苦痛に感じて訴える症状で、患者の言葉で一言に放言されたものをいう。たとえば、腰が痛い、肩が動かない、手がしびれるなどの患者の最もよく訴える愁訴(自覚症状)である。記載するときは、できるだけ簡潔な言葉で、腰痛、肩の運動制限、手のしびれ、などと書くとよい。

主訴は1つのみのこともあるが、多くは2〜3あるいはそれ以上のこともある。できるだけ5つ程度にまとめる。

理学療法評価学 [3]

デマンド:Demand

対象者や障害者自身が主観的に要求する要望で、「元のように歩きたい」などの希望である。

理学療法学辞典 [1]

ニーズ:Needs

医師や理学療法士などの専門家による診察や評価によって対象者や障害者にとって客観的に必要と判断されるもの。

理学療法学辞典 [1]

主訴・デマンド とニーズとの折り合い

主訴やデマンドは患者の視点であり(患者の主観)、ニーズは医療者の視点(客観)です。そのため、初期段階での全体像の評価では、主訴やデマンドとニーズとの関係は、乖離がみられたり、齟齬が生じていることも少なくありません。しかし、理学療法が進行するにつれ、これらの関係は接近していきます。無理に、拙速に、主訴やデマンド とニーズを同じものにする必要はありませんが、これらの関係が接近する過程が、インフォームド・コンセントや、Shared Decision Makingにおいて重要であると言えるかもしれません。

[1] 奈良勲 (監修): 理学療法学辞典. 医学書院, 東京, 2006

[2] 上田敏、大川弥生 (編): リハビリテーション医学大辞典. 医歯薬出版, 東京, 1996

[3] 松澤正、江口勝彦:理学療法評価学, 金原出版, 東京, 2018

効果的に面接するための技法

かかわり行動

目的 対象者との間に安心できる対話の場面を設定する。
方法 リラックスした雰囲気を示しながら、傾聴の姿勢で対象者に視線を合わせる。
注意点 視線を合わせることで対象者を注目していることを表すが、同時に緊張をもたらすので、凝視せずに自然に視線を向ける。

観察技法

目的 対象者の行動に表れる非言語的メッセージを適切に理解する。
方法 相手の表情やしぐさや態度、声の調子などの非言語的な行動やその変化を観察する。会話の内容と行動の変化を観察する。
注意点 観察だけで相手のようすを適切に読み取ることは難しく、経験を要する。

はげまし

目的 あいづちなどにより話題に焦点づけ、相手の話を促進させる。話の維持を促す。
方法 視線を合わせる、身を乗り出す、「うんうん」、「そうですね」、「あ、そうなんですね」、「なるほど」などとあいづちを打つ。
注意点 話し手に十分かかわっていることを示す、話す内容から話題を拾っていくようにする。

開かれた質問、閉ざされた質問

目的 面接者が話し手の話題を深めたり、方向付けたりする際に用いる。
方法 閉ざされた質問:「はい」や「いいえ」で答えるなど、決まった返答を想定した質問。面接の初期段階で話し手に負担をかけず会話を始めることができる。
開かれた質問:「どう思いますか?」など、自由な返答を想定した質問。話し手は自分のペースで伝えたいと思うことを表現することができる。
注意点 閉ざされた質問の多様⇒話し手の自由な発言を抑制してしまう。
開かれた質問の多様⇒質問の意図が伝わりにくかったり、心理的に負担を与えてしまう。

言い換え

目的 話し手に対し、着目していることを示す。話し手との関係性を発展させる。聞き手が、話し手の発言内容を理解しているかテェックする。話し手の考えを明確化する。面接を方向づける。
方法 話し手の言葉や表現を簡潔に反復して返す。
注意点 話し手自身も自分の気持ちや考えを再確認し、明確にすることができる。

対象者

困ったことと言ってもねー。入院してるから、身の回りのことは全部やってもらえるし。あー、でもトイレに行くときにわざわざ呼ばないといけないでしょ。わずらわしいねー。まだ危ないからと言って許可されていないのよ。
まだ歩くのが安定しないから、トイレにお一人で行けないのが困っているんですね。

理学療法士

観察(視診)

着眼点

  • 正常の理解(解剖学、生理学、運動学、神経科学などの視点)
  • 正常からの逸脱(病理学、臨床運動学などの視点)

正常や正常からの逸脱は、理学療法学概論の「理学療法の対象となる生活機能とその評価」で紹介したように多岐にわたります。

運動、動作、行為の違い

表 運動、動作、行為の違い [1]

活動・行動のレベル 意味 脳卒中による障害の一例
運動(movement) 身体各部の空間的位置変化のことで、姿勢(体位と肢位)が時間的に連続して変化したもの 脳卒中の痙性麻痺により、膝関節を随意的に伸展させることができない
動作(motion) 運動によって具体的に行われる仕事や課題との関係で行動を分析するときの単位 下肢の随意運動の障害により、立ち上がりや歩行ができない
行為(action) 社会文化的意味や意図との関連で捉える時に使用される 立ち上がり動作や歩行の障害により、トイレで排泄することができない
[1] 甲田宗嗣: 片麻痺. 日常生活活動学・生活環境学. 医学書院, 東京, 2017, pp102-118

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