評価を理学療法に活かす

評価と生活機能モデルの関連

理学療法の評価対象は、生活機能(障害)ですので、それぞれの評価が国際生活機能分類の生活機能モデルの中のどのレベルのどのような生活機能に対応するか、理解する必要があります。

評価に基づく理学療法

理学療法学概論手段としての理学療法の構成において、生活機能トレーニングの例として、排泄行為の際にズボンを下ろす動作を行うことができない事例を紹介しました。

ここでは、この事例に対し、どのように評価を進め、理学療法プログラムを立てるのか、考え方を解説します。

全体像の評価から生活機能(障害)に応じた評価へ

生活機能トレーニングの例では、ズボンを下ろす動作に関連する代表的な生活機能として、姿勢、バランス、筋力、感覚、関節の構造と可動性などを挙げました。これらの生活機能(障害)に応じた評価を示します。

  • 関節の構造と可動性 → pp.65 関節可動域測定
  • 姿勢 → pp.89 身体の変形
  • 筋力 → pp.100 徒手筋力検査
  • 感覚 → pp.124 知覚検査
  • バランス → pp.145 バランステスト
[1] 松澤正、他: 理学療法評価学 第6版, 金原出版, 2018

評価から理学療法プログラムを作る

評価から理学療法プログラムを作る際には、以下のようなポイントを考えます。ただし、ここで紹介するポイントは、私の知る限り標準化されておらず、あくまでも私が理学療法プログラムを作るときに気をつけているポイントです。

  • 生活機能の障害を引き起こす可能性がある原因(疾病や加齢などの病態)を推測する
  • 生活機能の障害一つ一つに対し、改善を期待できる理学療法プログラムがあるかどうか考える→障害ごとのプログラム
  • 障害ごとのプログラムを行えば、全体像の評価で認められた問題も改善されるかどうかを考える
  • 全体像の評価で認められた問題そのものを改善させるプログラムを考える→全体的・統合的なプログラム
  • それぞれのプログラムの効果の期待値、時間配分、疲労の観点から、障害ごとのプログラム、全体的・統合的なプログラムの構成を考える→プログラムの洗練

このようなことを考えながらプログラムを作ります。特に、疾病や加齢などの病態を理解することが重要です。実際には、患者さんの要望や好みなども考慮します。

評価に基づく理学療法の工夫

理学療法学概論で「統合と解釈は三要素を同時に処理する」と説明しました。統合と解釈は、理学療法プロセスにおいて極めて重要です。

例えば、手段としての理学療法の構成で、運動機能トレーニングの動画を紹介しました。ここで紹介した動画では、脳卒中患者に対し、ボールを使った練習が行われています。一見、ただ単に手でボールを転がしているように見えるかもしれませんが、闇雲にボールを転がす動きを繰り返すだけでは麻痺の回復を促す効果は高まりません。

脳卒中により生じる痙縮を理解した上で、対象者の痙縮の特徴を評価する必要があります。痙縮の評価については、生活機能(障害)に応じた評価の例示で説明しました。これらの評価で得られた情報をもとに、どの大きさのボールを使い、どの程度の範囲でボールを転がし、何回反復し、練習の中でどのような動きに注意を向けてもらうかなど、練習の内容を詳細に決めます。

Brunnstrom testの上肢のIVとVの検査方法を比較すれば分かりますが、肩を前や横に上げた肢位よりも、肩を下ろした肢位の方が共同運動が起こりにくく、前腕や手指を分離して動かしやすい傾向があります。ボールが大きすぎると、肩を前にあげた肢位になりやすいので、共同運動が起こりやすくなり、肘や手指が曲がりやすくなります(小さすぎても手指や前腕の共同運動が起こりやくなることもある)。共同運動が起こらず分離した運動を学習してもらいたいのなら、共同運動が起こらない大きさのボールを選定する必要があります。

また、座位で体を前方に大きく倒すと、体を支えるために下肢に体重がかかり、下肢の筋活動が増大します。下肢の筋活動が増大すると、上肢(肘や指)など他の部位の筋緊張が亢進する連合反応が起こりやすくなります。連合反応が起こらないような運動を学習してもらいたいのなら、連合反応が起こらない範囲で体を前方に倒す必要があります。

このように脳卒中により生じる痙縮の病態を理解することで、トレーニングの方法を対象者に合わせて適切に調整できるようになります。

病態を理解することにより、オーダーメイドのトレーニングを作ることができるようになります。逆に、辛辣な表現になりますが、病態を理解していなければ、一般的な運動のパンフレットを渡す程度のことしかできず、理学療法士がマンツーマンで関わる必要はありません。病態を理解する(わかる)ということは、それにより理学療法が工夫される(かわる)ことである、と言ってもよいでしょう。

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