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出典
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目的
新しいことを学習すると脳の器質的変化がもたらされることが知られています。しかし、新しいことを学習することにより脳の器質的変化が生じるのか、それとも単に運動することにより生じるのか、また、脳の器質的変化は統合失調症患者でも確認できるのかについては、明らかにされていません。そこで、統合失調症患者とコントロール群として健常者に対して自転車エルゴメーター運動を6ヶ月間継続することの効果が調査されました。オランダ人の85%は自転車を所有しており、自転車をこぐ動作はオランダ人にとっては馴染みの深い動作であり、新しい動作の学習というよりも単純な運動と考えることができるという仮説のもとに研究が行われました。
方法
33人の統合失調症患者と48人の健常者が、身体運動群と通常生活群の2群に割り当てられました。2群で統合失調症の有無の比率が同等になるようにしました。介入の前後で拡散テンソル画像による脳スキャンを行いました。
統合失調症患者の発症からの期間は、身体運動群で2358(SD: 2137)日、通常生活群で3085(2180)日、介入前ベースラインにおける入院期間は身体運動群で114(113)日、通常生活群で279(375)日でした。
介入期間は6ヶ月間で、通常生活群に割り当てられた統合失調症患者は精神科作業療法を受けました。
身体運動群の運動は、1回1時間、週2回行われ、1回の内容は40分間の有酸素運動と20分間のそれ以外の運動から構成されてました。40分間の有酸素運動では、自転車エルゴメーター、上肢のマシーントレーニング、トレッドミルが使用されました。有酸素運動のうちだいたい50%を自転車エルゴメーター運動にしました。これに加え、15Repetision Maximumの運動強度で筋力増強運動を行いました(上腕二頭筋、上腕三頭筋、腹筋、大腿四頭筋、胸筋群、三角筋)。自転車エルゴメーターの負荷の具体的な設定は、漸増的に負荷を上げる方法でした(1〜3週目:45%心拍数、4〜12週目:65%、13〜26週目:75%;100%心拍数は最初の運動負荷テストで計測)。全てのセッションの50%以上参加した人を身体運動群に採用しました。身体運動の指導は、精神科専門の理学療法士により指導されました。
結果
自転車エルゴメーターの仕事率は、身体運動群において統合失調症患者、健常者ともに改善しました。統合失調症患者では、身体運動群においてPANSS 【参考文献】 (Positive and Negative Symptoms Scale)の陽性兆候(身体運動群で14.9 (SD: 3.9)から12.3 (4.5)、通常生活群で15.0 (3.9)から15.7 (4.6)、p=0.04)と興奮(身体運動群で12.4 (1.8)から11.3 (1.9)、通常生活群で12.7 (2.0)から13.6 (1.5)、p<0.001)の項目で有意な改善が認められました。
介入前後と2群の交互作用において、統合失調症患者と健常者ともに身体運動群の方が通常生活群と比べて有意にFA値が増大しました(皮質脊髄路にてF = 4.15, P = 0.045、上縦束にてF = 5.092, P = .027、脳梁の大鉗子にてF = 5.687, P = 0.02)。
考察
今回の知見は、健常者でも統合失調症患者でも、スキルとして十分に学習された運動により脳の結合を改善させることを示唆しており、統合失調症患者に対するフィットネスプログラムが有効であることを示唆しています。さらに言えば、運動機能に関連した領域以外にも効果が期待できるかもしれません。
所感
統合失調症患者に対する介入内容は、自転車エルゴメーターを中心にしながら複数のトレーニングを実施しており、トレーニング内容にある程度の自由度を設けている点は工夫を感じました。エルゴメーターの仕事率という運動機能に加え、脳の構造変化が生じたことも興味深いです。皮質脊髄路だけではなく、脳梁や上縦束にもFA値の等方向性が増したのも興味深いです。
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