Evidence Based Medicineと理学療法

Evidence Based Medicine(EBM)が広まった背景

EBMは1992年にカナダのMcMaster大学のDavid SackettやGordon Guyattらによって 提唱されました [1]。EBMが広まった背景はいくつか指摘されています [2] 。

一つは、1980年代に行われたイギリスの行政改革により、健康サービス研究(health service research)と公衆衛生研究(public health research)の研究が重視されるようになり、こうした方向性の転換により、科学的な情報に基づく医療政策と医療行為が促され、効果的で効率的な資源の利用のための行政改革が実施されました。

もう一つは、1980年代のアメリカで財政赤字を抑制するため、政策評価が行われるようになったことが挙げられます。1990年代になると行財政にも市場経済の視点が導入され、より少ないコストで、より良い成果をあげることが重視されるようになりました。つまり、一般にも分かりやすい成果が求められるようになったのです。このような政策の転換は臨床疫学の研究にも影響を与えました。

林 [3] はEBMが広まった社会的背景を以下のように指摘しています。

重要な点はEBMそれ自体が独立先行し現在に至ったわけではなく、むしろ社会改革の一翼を担い、また、社会の要請に応える形で、他の社会改革評価手法と共鳴しつつ発生・発達したことである。

[1] 南郷栄秀: Evidence-based medicine:診療現場でのプロブレムの解決法. 日本内科学会雑誌 106 (12): 2017, 2545-2551

[2] 正木朋也: エビデンスに基づく医療(EBM)の系譜と方向性: 保健医療評価に果たすコクラン共同計画の役割と未来. 日本評価研究 6(1) : 2006, 3-20

[3] 林謙治: 根拠に基づく健康政策へのアプローチ. 公衆衛生研究. 49 (4): 2000, 346-353

EBMとは

中川 [1] はSackettによる定義を日本語で以下のように分かりやすく言い換えています。

あやふやな経験や直感に頼らず,科学的Evidence(証拠)に基づいて最適な医療・治療を選択し実践するための方法論

[1] 中川仁: EBMの実践―本来のMcMaster大学方式に則って―. 情報管理 45(6): 2002, 403-410

[2] 橋本淳: EBMの実践とEBH. J Natl Inst Public Health 49 (4): 2000, 329-345PDF

EBMの課題

南郷 [1] はEBMの課題を以下のように述べています。

エビデンスが あると誰もがその治療に従ってしまう事態が起 きている.権威からの脱却を図るはずだった EBMそのものが権威化しているのは皮肉であ る.「エビデンス」を盲目的に信じ,個別の患者 の診療行動について医療者が自ら考えないので は,「経験」のみに従っていた時代と何ら変わりはない。

EBMを実践するためには、患者の状態や現場環境、患者の意向や価値観、研究によるエビデンスを把握した上で、専門家としての意見を示すことが必要とされています<図 EBM実践の4要素>。理学療法においては研究によるエビデンスが不足しており、そこに目が向けられる場合がある一方で、他の3要素を十分に考慮しないまま専門家としての意見だけを示す場合も多いように感じます。これらの4要素すべてに気を配ることがEBM実践に不可欠だと思います。

 

図 EBM実践の4要素( [1] を一部参考に [2] を著者訳にて引用)

 

[1] 南郷栄秀: Evidence-based medicine:診療現場でのプロブレムの解決法. 日本内科学会雑誌 106 (12): 2017, 2545-2551

[2] Haynes RB, et al: Physicians’ and patients’ choices in evidence based practice. BMJ 324(7350): 2002, 1350

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