国際障害分類と国際生活機能分類

国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps: ICIDH)

国際障害分類(ICIDH)ができた時期

障害が世界保健機構(World Health Organization: WHO)で初めて定義されたのは、1980年です。それまで、WHOは、国際的に統一した疾病や傷害、死因の分類(国際疾病分類; international classification of disease: ICD)を作成してきましたが、ICDの第9回目の改定に合わせて、補助分類として、機能障害と社会的不利に関する分類である国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps: ICIDH)を発表しました [1]。

国際障害分類(ICIDH)ができた翌年の1981年は国際障害者年と定められており、障害に対する関心が高まった時期といえます。

国際障害分類(ICIDH)ができた背景

国際障害分類が必要となった背景として、急性感染性疾患が激減し、寿命が延長するにつれ、慢性疾患が増加するなど疾病像が著しく変化したこと、そのため障害を持って生活する人が増えたことなどがあります[2]。

国際障害分類(ICIDH)の障害構造モデル

このは、国際傷害分類の障害構造モデルです。

図 国際障害分類の障害構造モデル

国際障害分類の障害構造モデルの特徴は、疾患だけに着目するのではなく、疾患の結果として生じる障害に着目し、機能・形態障害ー能力障害ー社会的不利という障害の3階層(3レベル)を示したことです。

国際障害分類の3階層の例をに示します。

表 国際障害分類(ICIDH)の例

障害構造
機能・形態障害関節拘縮、筋力低下、痙性麻痺、呼吸機能低下
能力障害歩行障害、セルフケアの障害、コミュニケーション障害
社会的不利就業困難、外出機会の減少、自宅環境不適合、経済的損失

機能・形態障害は生物レベルの障害であり、関節拘縮(関節が硬く柔軟性がなくなった状態)、筋力低下、痙性麻痺(脳卒中などによる麻痺)、呼吸機能低下などがあります。能力障害は個人レベルの障害であり、歩行障害、セルフケアの障害(排尿や排便の障害)、コミュニケーション障害などがあります。社会的不利は社会レベルの障害であり、就労困難、外出機会の減少、自宅環境不適合などがあります。

国際障害分類(ICIDH)の特徴

相互依存性:機能・形態障害、能力障害、社会的不利がそれぞれ関連しあっているということです。

例えば、骨折により足関節が硬くなってしまったら(拘縮)、歩きにくくなってしまいます。これは、機能・形態障害が能力障害につながった例です。歩きにくくなってしまったため、遠くまで買い物に行くことができず家事などの役割を満足に行えなくなってしまったとすれば、これは、能力障害が社会的不利につながった例です。

相対的独立性:機能・形態障害、能力障害、社会的不利が必ず関連するわけではないということです。

例えば、下肢を切断したからといって絶対に走ることができないかというと、必ずそうとは言えないことはパラリンピックなどを見れば理解できると思います [3]。他の例では脊髄損傷や難病などが原因で立ち上がることができない能力障害を受けた場合、仕事ができないという社会的不利を受けるかというと、必ずしもそうとは言えません。物理学で有名なホーキング博士は、学生時代に筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病を発症し、車いすで研究を続けられました [4]。

[1] 厚生労働省 – 第11回 社会保障審議会統計分科会 – ICFに係るこれまでの経緯について

[2] 上田敏: 新しい障害概念と21世紀のリハビリテーション医学 : ICIDHからICFヘ. リハビリテーション医学 39(3) : 2002, 123-127

[3] ログミー – 「義足ランナーがウサイン・ボルトを超える日」 2020年、東京五輪・パラリンピックで”逆転現象”は起こるか? – Redesigning the leg: 遠藤 謙 at TEDxTokyo2014(YouTube動画)

[4] BBCニュース – ホーキング氏死去 世界的な物理学者が残した数々の名言

国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF)

国際生活機能分類(ICF)ができた時期

国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF)は、国際障害分類ができた1980年から約20年経過した2001年に、国際障害分類を改定する形でWHOの総会で採択されました。

国際生活機能分類(ICF)ができた背景(ICIDHの問題点)

マイナス面に加えてプラス面も:国際障害分類(ICIDH)は、障害というマイナスの面だけをみるのに対し、マイナス面だけでなくプラス面もみる必要があると指摘されました。つまり、できないことだけでなくできることもみることで、障害を持つ人の全体像をみるようにする必要があったということです。

障害に対する主観的側面の重要性:国際障害分類(ICIDH)は、機能・形態障害、能力障害、社会的不利について客観的に構造を明らかにしたことは功績がありました。しかし、国際障害分類(ICIDH)では、対象者の「主観的」側面をみることが不十分であると指摘されました。主観的側面とは、障害に対する捉え方です。同じように関節が拘縮し、筋力が低下したとしても、ある人は、とても悲観的になるでしょうし、別の人は、前向きに様々なことに挑戦するかもしれません。このような主観的側面は、個人を取り巻く状況や来歴により影響されるものですが、国際障害分類(ICIDH)モデルでは取り扱われていませんでした。

環境要因の重要性:機能・形態障害があったとしても、バリアフリーやユニバーサルデザインを考慮した環境が整備されていれば、社会的不利の状況は大きく異なります。そのため、障害を持つ人の機能・形態障害だけでなく、周りの環境や社会システムなども考慮しないと、本当の意味での障害像を理解することはできません。国際障害分類(ICIDH)には、このような環境要因に対する考え方も不足していたという指摘があります。

国際生活機能分類(ICF)の生活機能モデル

図 国際生活機能分類の生活機能モデル

生活機能モデルは以下の3つのレベルと2つの背景因子から構成されます [3]。それぞれの生活機能モデルにどのような機能が含まれるのかを詳しく知りたい場合、こちらのページ [8] が参考になります。

(1)心身機能・身体構造(生物レベル、生命レベル)
生命の維持に直接関係する、身体・精神の機能や構造で、これは心身機能と身体構造とを合わせたものです。
心身機能とは、たとえば手足の動き、精神の働き、視覚・聴覚、内臓の働きなどです。身体構造とは、手足の一部、心臓の一部(弁など)などの、体の部分のことです。

(2)活動(個人レベル、生活レベル)
生活行為、すなわち生活上の目的をもち、一連の動作からなる、具体的な行為のことです。
これはあらゆる生活行為を含むものであり、実用歩行やその他のADL(日常生活行為)だけでなく、調理・掃除などの家事行為・職業上の行為・余暇活動(趣味やスポーツなど)に必要な行為・趣味・社会生活上必要な行為がすべ てはいります。また国際生活機能分類(ICF)では「活動」を「できる活動」(能力)と「している活動」(実行状況)との2つの面に分けて捉えます。

(3)参加(社会レベル、人生レベル)
家庭や社会に関与し、そこで役割を果たすことです。
パートナーとして、あるいは親としての家庭内役割であるとか、働くこと、職場での役割、あるいは趣味の会に参加する、スポーツに参加する、地域組織のなかで役割を果す、文化的・政治的・宗教的などの集まりに参加する、などの広い範囲のものが含まれる。

(4)環境因子
環境因子というと、建物・道路・交通機関・自然環境のような物的な環境のみを考えがちですが、ICFはそれだけでなく、人的な環境(家族、友人、仕事上の仲間など)、態度や社会意識としての環境(社会が生活機能の低下の ある人をどうみるか、どう扱うか、など)、そして制度的な環境(医療、保健、福祉、介護、教育などのサービス・制度・政策)と、ひろく環境を捉えます。
環境因子が生活機能に対してプラスの影響をしている時は促進因子(Facilitator)と呼び、マイナスの影響を与えている時は阻害因子(Barrier)と呼びます。

(5)個人因子
その人固有の特徴をいいます。これは非常に多様であり、分類は将来の課題とされて、年齢、性別、民族、生活歴(職業歴、学歴、家族歴、等々)、価値観、ライフスタイル、コーピン グ・ストラテジー(困難に対処し解決する方法)、等々の例が挙げられています。この個人因子は個性というものに非常に近いものであり、医療でも 福祉でも、職業、教育、その他でも、患者、利用者、生徒などの個性を尊重しなければいけないということが強調されている現在、重要なものです。

表 ICFの概観

第1部:生活機能と障害 第2部:背景因子
構成要素 心身機能・
身体構造
活動・参加 環境因子 個人因子
領域 心身機能
身体構造
生活・人生領域
(課題,行為)
生活機能と障害への外的影響 生活機能と障害への内的影響
構成概念 心身機能の変化
(生理的)身体構造の変化
(解剖学的)
能力
標準的環境における課題の遂行
実行状況
現在の環境における課題の遂行
物的環境や社会的環境,人々の社会的な態度による環境の特徴がもつ促進的あるいは阻害的な影響力 個人的な特徴の影響力
肯定的側面 機能的・構造的
統合性
活動
参加
促進因子 非該当
生活機能
否定的側面 機能障害
(構造障害を含む)
活動制限
参加制約
阻害因子 非該当
障害

活動と参加は区別しにくく、ICFの概観の表ではひとつにまとめられています。

国際生活機能分類(ICF)の特徴

Functionについて

国際生活機能分類は英語を日本語に訳したものですが、英語では、International Classification of Functioning, Disability and Healthです。一方で、心身機能は英語では、Body Functionです。この2つの意味合いは異なるもので、ICFのFはとても広い意味があるそうです。ICFの作成に深く関わった上田自身が、ICFのF(Functioning)は「人間が生きること全体を示す中立的な言葉」であり、これまで存在しないものであったため、それを英語で「functioning」と言うのも無理があり、さらに日本語に訳して「生活機能」と言った場合にもかなり無理がある [5] と述べており、Body Functionの意味合いと混同しないように注意が必要です。

Disabilityについて

国際障害分類(ICIDH)ではDisabilityは障害の3つのレベルの一つでした。しかし、ICFでは障害全般を示す包括用語に変わりました [5]。ICIDHではDisabilityは「能力障害」と訳されましたが、ICFではDisabilityはいわゆる「障害」と訳されることになったのです。

プラスの面を重視

国際障害分類(ICIDH)がマイナス面の分類であったのに対し、国際生活機能分類(ICF)はプラスの面もマイナスの面も扱うことが特徴です。ICFではマイナスの面は以下の3つに分類します。

  • 機能障害(構造障害を含む)(Impairment):心身機能・構造に問題が生 じた状態
  • 活動制限(Activity Limitation):活動に問題が生じた状態
  • 参加制約(Participation Restriction):参加に問題が生じた状態

ICFでは、3つのレベルそれぞれにおいてプラスの面とマイナスの面をみて、プラスとマイナスの関係をみます。

活動と参加は「できる」と「している」をそれぞれ評価

活動と参加はすべての生活・人生の領域をカバーしています。これらの領域は実行状況能力の2つの評価点から評価されます。実行状況(performance)の評価点とは、個人が現在の環境のもとで行っている活動/参加を表すものです。能力(capacity)の評価点とは、ある課題や行為を遂行する個人の能力を表すものです。

我が国では国際生活機能分類(ICF)ができる以前より、実行状況と能力に似た言葉として「できるADL」と「しているADL」が使われており、「できるADL」から「しているADL」へつなげることの重要性が指摘されてきました [7]。

表 活動と参加の一括表

領域 評価点 実行状況 能力
d1 学習と知識の応用    
d2 一般的な課題と要求    
d3 コミュニケーション   
d4 運動・移動    
d5 セルフケア    
d6 家庭生活    
d7 対人関係    
d8 主要な生活領域    
d9 コミュニティライフ・社会生活・市民生活    

医学モデルと社会モデルを合わせた統合モデルとしてのICF

医学モデルでは、障害を個人の問題としてとらえ、障害は健康状態(病気など)から直接的に生じるものであり、障害への対処は、治癒あるいは個人のよりよい適応と行動変容を目標になされます。これに対し、社会モデルでは、障害を個人の特性ではなく、主として社会によって作られた問題とみなします。

国際生活機能分類(ICF)では、医学モデルと社会モデルを統合した統合モデルで障害をとらえます。統合モデルでは、次の3点が大きな特徴です。

  1. すべてのレベルを重視:特定のレベルや要素(健康状態、環境因子など)を過大視せず、全体をみて、全体的にとらえる。
  2. 相互作用を重視:生活機能の3レベルが互いに影響を与え合い、さらに一方では「健康状態」、他方では「環境因子」と「個人因子」がそれらと影響を与えあうという相互依存性を重視します。同様に、相対的独立性も重視します。相互作用と相対的独立性については、ICIDHの項目を参照してください。
  3. プラス面から出発:プラス面を重視し、マイナス面をもプラス面の中に位置づけてとらえます。
[1] 厚生労働省 – 「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について

[2] 障害保健福祉研究情報システム(DINF) – 「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)

[3] 厚生労働省 – 社会保障審議会 (統計分科会生活機能分類専門委員会) –  ICF(国際生活機能分類) -「生きることの全体像」についての「共通言語」-

[4] 上田敏: 新しい障害概念と21世紀のリハビリテーション医学 : ICIDHからICFヘ. リハビリテーション医学 39(3) : 2002, 123-127

[5] 医学書院 – 週刊医学界新聞 – 新しい国際障害分類「ICF」第2453号 2001年9月17日

[6] 医学書院 – 理学療法学事典

[7] 上田敏: 日常生活動作を再考する. リハビリテーション医学 30(8): 1993, 539-549

[8] ICF illustration library

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